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【 選択4[土の国の集会] 】



魔王と猫が出かけると、側近が伝えに来た。
今日は彼が普段キティのする事を代わりにするらしい。

「なにかあったのですか?」
「土の国、フォレストソイルで各国の集会があるようです。交通の都合が良い所ですから、かの国は」
「集会……?」
「危険はないでしょうから、キットン・ソックスも社会勉強させるため一緒に行かせています」
「側近さんはご一緒されないのですか?」
「ええ、誰かが残りませんと姫様に何かあった時に対応出来ませんから」
「……」
「私のようなつまらぬ男に、身の世話を委ねるのはお嫌でしょうがご辛抱頂けますよう……」
「そんな事はないですよ」
「そうでしょうか」

フォレストソイル……。



   ①国の集会が気になる
   ②猫がいないと寂しいと思う
   ③ゆっくり待とうと考え直す



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【 国の集会が気になる 】

父や母、兄上や姉上、侍女や寺院の修道女達……きっと私の事を心配しているのだろう。
集会の内容はその事だろうか。他の話かもしれない。
私がいなくなったことで、国に不利益が生じてしまっていたらどうしよう。
政治のことは何も解らないが、不安になってくる。

魔王が帰省しだい国の状況を聞こう。


 * * *


「我を……呼んだか、ティト」
「リンドヴルム魔王……集会の事を私に教えてください」
「……」
「私の事は……何か、話していましたか?」
「……今回はその件についての話は出なかった」
魔王は視線を合わせず答えた。
その言葉に「まだ」という単語が隠されているような気がする。

「ホーグランド国の祭式の話だ。その国の王がおおっぴらに宣言していた」
「そうですか」
「今回は他国の目があるから、あまり目に余るような言動は無かったが。……愚かな男だ」
「ホーグランドの王とあまり仲が良くないのですか?」
「仲……。我は出来ないのではなく、お互いしないだけだ」
「……」
「飢えを知らず、争いも知らず、驕り高ぶり。前の王はあの長い戦争の経験故に分別がついたが」
リンドヴルムが紫の瞳をこちらに向いた。
「あの様な男のモノになるなど、我は認めない」

少しの沈黙の後、リンドヴルムが無言でテーブル近くに移動した。
小さめの木箱をテーブルに置く。大きな手の中に忍ばせていたのだろう。
「何でしょうか」
「汝の国で猫に選ばせたモノだが、気に入ってくれるか?」

「オルゴールね」
木箱の中には、飾りの付いた小さなオルゴールが入っていた。
仕掛けにより音を鳴らすもので、繊細な造りをしている。

巻き鍵でゼンマイばねを巻く。
鳴るはずの音は、鳴らない。

「……?」
魔王は動かぬ事を悟ると、低く唸るように深いため息を吐き出すと口を開いた。
「猫め……我に脆く繊細なモノを扱えぬという揶揄か」
「あ、あの。彼に悪気はないと思うので、叱らないであげてください」
「……」
「故郷にゆかりのある物を頂けるだけで嬉しいです」
「そうか」

「この装飾は天使なのですね」
モチーフの飾りを指先で撫でる。
「地母神の使いの小鳥が人に似た姿になっているんです」
「……」
「幸福をもたらしに来ると寺院で習いました」
「天使というのは汝の様な存在か?」
「えっ」
「違うのか……? なら唯の我の戯言だ、気にするな」


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【 猫がいないと寂しいと思う 】


がらんとした空間……キティがいないとこの部屋は広く感じる。
賑やかで会話の多い彼に随分と自分は助けられていたのだと感じる。
「早く会えないかしら……」


 * * *


「ティトー、ただいまー! 僕疲れたー!」
「おかえりなさい、キティ!」
「お偉いさんのご機嫌取り、ゴキゲンとりよー」
「お疲れ様」

キティがくったりとしてベッドの上に身体を投げ出している。
後で側近さんにキティが叱られる様な事がなければ良いのだが。
少し前にベッドを新しいものに交換してから、側近は猫の毛が付くのを気にしているようだった。
けれど今は、綿のように疲れている彼をとにかく休ませてあげたかった。

「何が一番嫌かっていうと……そう! あいつっ!」
「あいつ?」
「僕さ、ああいうタイプって利害が一致していたり、僕のこと可愛がってくれるんならさ、まだ目をつぶるけどね」
「何かされたの?」
「あいつあからさまに僕のこと馬鹿にするんだものっ!!……そりゃ宮廷愚者、オロカモノとは言うけどさー」
「よく解らないけれど、大変だったのね」

「ねえ、ティト?」
「ん?」
俯いていたはずのキティがこちらを首を曲げて見ている。
「君はあいつの愛玩動物になるつもりだったの?」
「えっ?」
「なーんでもいう事を聞いて、逆らわない。自我のない、愛玩動物」
「……?」
「首なんかかしげちゃってまー、ティトってば。可愛いんだから」

「僕にいわせれば、ティトの親父も親父なんだけれどねー、ブリーダーみたい」
「……」
「ごめんね、いじわる言って。僕そーとー疲れているみたい……あはは」

「あ、そうだ。はい、お土産」
キティが背中からシワの入った紙を取り出し手渡した。
鳥の絵が描いてある葉書だ。
「グリーティングカードね、嬉しいわ」
「手紙って切手があればどこにでもいけるよね」

「本当は別のものをあげようと思ったんだけど、魔王に取りあげられちゃったから、これしかプレゼントがないや」
「魔王に……?」
「すんげー繊細なの選んでやったんだ、きっと粗暴な魔王はすぐ壊しちゃうよ」
「いいの?」
「いーよ、別に。たまにイジワルしても。壊れてるか壊れてないかは箱を開けなきゃわかんないし」
「……?」


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【 ゆっくり待とうと考え直す 】


色々と思う事や考える事はあるけれど、気を取り直して今を過ごそう。


 * * *


「グラスの水が減っていますので、注ぎします」
「ありがとうございます」
「……」

普段と変わらぬ食事風景も、傍にいる人が代われば新鮮な感じだ。
「側近さんも一緒にご飯を頂きませんか、キティとは時々一緒に食べるんです」
「せっかくのお申し出ですが……ご遠慮致します。すみません」
「そうでしたか、ずっと見つめていらっしゃる様な気がして、てっきりお腹がおすきになられているのかと」
「……! え、いや……姫様はいつも食事の後のお皿が綺麗だと思いまして」
「えっ!もしかして、はしたなかったでしょうか?」
「いいえ! 暗に食い意地が張っているとかそういうことを言っているのではなく、褒めたのです!」
彼が少し動揺しているように見える。本当に珍しい。

「ほら、王とか貴族には飽食で食べ物を粗末にする人がいるでしょう? 品位がある者はそのような事はいたしませんから」
「…… ありがとうございます」
「あと、キットンと食事をする時は、不衛生な物を持ち込んだら叱ってください……ヤモリとか」
「あ、はい……」


 * * *


食事が終わった後も、彼はすぐに部屋を去るような事はなく留まり、私の話し相手になってくれた。
猫の不在で退屈するのではないかと心配したのかもしれない。
彼の知識は深く、興味深くいつまでも聞いていられる。

「……とこのようにフォレストソイルは戦火で散り散りに他国へ逃げた歴史があり、国際間の婚姻が進んだ結果、純フォレストソイル人の持つ独自の髪色の人は近年では少なくなったという訳です。とはいえ、逃亡先に留まらず元の地に帰ってきているという辺り人々は貴国の地の事が好きだったようですね」
「他の国の歴史の事も詳しいなんて側近さんは先生になれそうですね」
「……。そういえば姫様の髪も、その固有の色ですね。……大変美しい色であると私個人は思っています」
「ありがとうございます」



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