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【 竜は想う 】



真夜中に魔王である竜は密かな空想に耽る。
青い小鳥が醜い己に無理やりに抱きしめてられて、嫌がり抗う事すらままならず自分の物になっていく。
そんな夢想。
きっとその時の彼女は哀れで可哀想で、狂おしいほどに可愛いのだろう。

傷つき怯えた娘は、いつの間にか懐く素振りを見せるようになった。
己に最初の出会いの時の様に笑いかけるようになった。
無遠慮に事を及ぶ様な事がこの先あれば、二度と関係を修復出来ないだろう。

まあ、その様な不躾な振る舞いを行うには竜の力は強過ぎて壊してしまう。
優しく撫ぜるつもりが己の鱗で彼女の柔肌を剥ぎ、
優しく抱擁するつもりが、彼女の脾臓を押しつぶしてしまうだろう。
独りでリンドヴルム魔王は酒を呷りながら、自虐的に己を嘲笑った。
何故その様な部分だけ自身は竜で在るのかと。

この場所、あの部屋に縫い留めている間は彼女は誰のものにもならない。
今の所はそれで十分だ――だが。
竜という生き物は例外無く強欲なのだ。

その自身の影に今宵も怯えて魔王は眠るのだろう。




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