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さてさて。竜胆小箱の住人の、彼女ら彼らの持つ信仰についての話をしよう。
修道着姿のフォレストソイル国の姫、ティト・ブルーは、彼女の母国の信仰の地母神である女神に熱心に祈りを捧げている。
彼女にとって花嫁修業先で学んだ地母神信仰はとても大切な宝物だ。
優しい修道女や教師との出会いが彼女の人格を形成したといっても過言では無い。
地母神信仰は、女神が一柱いるものの、いろんなものに生命が宿るアニミズムの面が強い。
また、生き物は土へと還り、循環し、また新たな生き物となるという輪廻を説いている。
もしも生まれ変わった時、ティト・ブルーは自由な鳥になりたいのだそうだ。
彼女らしいささやかな夢である。
* * *
信仰、その手の話題を出すと決まってキットン・ソックスはあからさまに嫌な顔をする。
猫獣人であるキットンは生粋の無神論者であるからだ。
獣に神はいないでしょ、とうそぶくのは出生後の周りの環境が色濃いせいだろう。
過去の猫の王国に住む猫には特有の信仰もあったかもしれないが、その文化は致命的にまで崩壊していまっていて今では殆ど解明されていない。
文字を持たなかったとも言われ、今日も猫獣人文化に興味を持つ歴史研究者を泣かせている。
そういえばキットン・ソックスの話ではローレスの国の商人や盗賊達は、案外ゲンを担ぐらしく大陸で一番一般的な信仰の神に仕事の成功を願掛けで祈っているらしい。
そんな邪な願いを叶えてくれるのかは不明であるが。
* * *
リンドヴルムはさしずめ無宗教家といった所か。無宗教家と無神論者はまた別の意味合いのものである。
時に神に近い扱いを受ける竜という強力な力を持つ種族である事が主だった要因だろう。
魔国リンドレクには邪教という固有の宗教があるが、その信仰にすらあまり興味を示していないらしい。
そのためリンドレク根城の生活域には横穴近くのコボルドのための小さな邪教の礼拝堂しかない。
大陸一慈悲深い女神を崇拝する邪教は、困窮した祈る者を迎える最後の信仰だ。
少なくとも表面上に邪教に興味を示しているように見えるのは宰相や魔道研修所長。
寺院立ち寄る事が多いため信者達からの心証が良いが、その事情を知る者は内心複雑そうだ。
彼女ら自身は女神からの寵愛には関心が無いのだから。
* * *
最後に側近のアルラウネ。彼はちょっとばかり事情が複雑だ。
彼と信仰の話をすると、彼の知識は一般の者より詳しい事が解る。
けれども彼自身の持つ信仰を尋ねようとすると彼は苦しげに俯き頑なに口を噤む。
彼の個室の机には一冊の古ぼけた本が静かに置かれているという。
【 竜胆小箱住人と信仰 】
さてさて。竜胆小箱の住人の、彼女ら彼らの持つ信仰についての話をしよう。
修道着姿のフォレストソイル国の姫、ティト・ブルーは、彼女の母国の信仰の地母神である女神に熱心に祈りを捧げている。
彼女にとって花嫁修業先で学んだ地母神信仰はとても大切な宝物だ。
優しい修道女や教師との出会いが彼女の人格を形成したといっても過言では無い。
地母神信仰は、女神が一柱いるものの、いろんなものに生命が宿るアニミズムの面が強い。
また、生き物は土へと還り、循環し、また新たな生き物となるという輪廻を説いている。
もしも生まれ変わった時、ティト・ブルーは自由な鳥になりたいのだそうだ。
彼女らしいささやかな夢である。
* * *
信仰、その手の話題を出すと決まってキットン・ソックスはあからさまに嫌な顔をする。
猫獣人であるキットンは生粋の無神論者であるからだ。
獣に神はいないでしょ、とうそぶくのは出生後の周りの環境が色濃いせいだろう。
過去の猫の王国に住む猫には特有の信仰もあったかもしれないが、その文化は致命的にまで崩壊していまっていて今では殆ど解明されていない。
文字を持たなかったとも言われ、今日も猫獣人文化に興味を持つ歴史研究者を泣かせている。
そういえばキットン・ソックスの話ではローレスの国の商人や盗賊達は、案外ゲンを担ぐらしく大陸で一番一般的な信仰の神に仕事の成功を願掛けで祈っているらしい。
そんな邪な願いを叶えてくれるのかは不明であるが。
* * *
リンドヴルムはさしずめ無宗教家といった所か。無宗教家と無神論者はまた別の意味合いのものである。
時に神に近い扱いを受ける竜という強力な力を持つ種族である事が主だった要因だろう。
魔国リンドレクには邪教という固有の宗教があるが、その信仰にすらあまり興味を示していないらしい。
そのためリンドレク根城の生活域には横穴近くのコボルドのための小さな邪教の礼拝堂しかない。
大陸一慈悲深い女神を崇拝する邪教は、困窮した祈る者を迎える最後の信仰だ。
少なくとも表面上に邪教に興味を示しているように見えるのは宰相や魔道研修所長。
寺院立ち寄る事が多いため信者達からの心証が良いが、その事情を知る者は内心複雑そうだ。
彼女ら自身は女神からの寵愛には関心が無いのだから。
* * *
最後に側近のアルラウネ。彼はちょっとばかり事情が複雑だ。
彼と信仰の話をすると、彼の知識は一般の者より詳しい事が解る。
けれども彼自身の持つ信仰を尋ねようとすると彼は苦しげに俯き頑なに口を噤む。
彼の個室の机には一冊の古ぼけた本が静かに置かれているという。